アパートやマンションなどの賃貸住宅に入居して、まず最初に行うべき儀式は、水道の元栓がどこにあるかを確認し、その操作方法をマスターすることです。賃貸物件では、以前の住人が退去する際に元栓を閉め、次の入居者が決まるまでそのままにされていることが多く、入居初日に蛇口をひねっても水が出ないというトラブルが頻発します。この時、多くの人が「水道が止まっている、契約ができていないのではないか」とパニックになり水道局に電話をかけますが、実際には単に外の元栓が閉まっているだけというケースが大半です。集合住宅の元栓は、玄関ドアを出てすぐの横壁にある小さな鉄扉、パイプスペース(MB:メーターボックス)の中に隠れています。扉を開けると、水道メーターと並んでT字型のハンドルやレバー式のバルブが見つかるはずです。これを左(反時計回り)に回せば水が出るようになります。しかし、ここで最も注意しなければならないのが、自分の部屋の元栓を正確に選ぶことです。一つのパイプスペースに上下二軒分、あるいはフロア全員分のメーターが並んでいる物件もあり、間違えて隣人の元栓を操作してしまうと、シャワーを浴びている隣の住人に冷水を浴びせることになったり、生活を妨害したりすることになり、入居早々トラブルの種を蒔くことになりかねません。メーターの横に必ず部屋番号が書かれた札やシールがあるはずですので、指差し確認をするくらいの慎重さが必要です。また、古い賃貸物件では、元栓が建物の裏側や一階の共用階段の下などに一括して設置されていることもあります。こうした場合は、内見の際や契約時に不動産会社の担当者に場所を聞いておくのが鉄則です。賃貸住宅において元栓の場所を知っておくことが重要なもう一つの理由は、退去時や長期不在時のリスク回避です。冬休みの帰省中に配管が凍結して破裂し、不在の部屋から階下へ水漏れが発生した場合、その損害賠償額は数百万円に及ぶこともあります。もし元栓を閉めて水抜きをしていれば防げた事故であっても、管理責任を問われるのは入居者自身です。たった数十秒の手間で、人生を狂わせかねない巨額の賠償リスクを回避できるのですから、元栓操作の習慣を持たない手はありません。さらに、賃貸物件の備え付けの蛇口やトイレは経年劣化が進んでいることが多く、ある日突然、止まらなくなることがあります。その際、修理業者が来るまでの間、元栓を閉めておかなければ、部屋の中は文字通り水浸しになります。水道の元栓は、あなたがその部屋で安心して暮らすための「主電源」のようなものです。どこにあるか分からないという不安を解消しておくことは、見知らぬ土地での新生活において、何物にも代えがたい心の平安をもたらしてくれるでしょう。引っ越し荷物が片付く前に、まずは玄関横の扉を開けてみてください。そこにある小さなバルブこそが、あなたの新生活を水の災厄から守る、最も身近な守護神なのです。