それは、水道料金の検針票がポストに届いた日のことでした。いつもより一桁多いその金額を見て、私は自分の目を疑いました。何か月分もまとめて請求されたのかと思いましたが、期間はいつもと同じ2ヶ月間。我が家で一体何が起きたのか、全く見当もつきませんでした。その日から、私は家のどこかで水漏れが起きていないか、血眼になって探し始めました。しかし、蛇口から水が滴っているわけでもなく、床が濡れているわけでもありません。途方に暮れていたある夜、ふとトイレに入った時に、微かに「ゴーッ」という音が聞こえることに気づきました。水を流したわけでもないのに、タンクのあたりから、水が流れ続けているような低い音がするのです。耳を澄ますと、便器の中をよく見ると、水面が僅かに波立っているようにも見えます。これだ。原因はトイレだ。私はすぐにトイレタンクのフタを開けてみました。すると、タンク内の水が、排水口に向かって静かに、しかし確実に吸い込まれているのが分かりました。そして、減った分の水を補給しようと、給水管から常に新しい水がチョロチョロと供給され続けていたのです。この、24時間止まることのない水の流れが、あの異常な水道代の原因でした。すぐにインターネットで調べ、原因はタンクの底にあるゴム製のフタ「フロートバルブ」の劣化だろうと見当をつけました。翌日、ホームセンターで同じ型の部品を数百円で購入し、交換作業に挑戦。作業は意外と簡単で、交換後はピタリと音が止みました。あの時、もし異音に気づかず放置していたらと思うと、今でもぞっとします。トイレの小さな「ゴー」という音は、家計に大打撃を与える、静かなる警報なのだと身をもって学んだ、忘れられない出来事です。