洗面所の排水溝がつまってしまい、水を流してもなかなか引かない。そんな時、手軽に解決できるかもしれない方法として「熱湯を流す」ことが頭に浮かぶかもしれません。実際に熱湯は、洗面所つまりの一般的な原因である石鹸カスや油汚れを溶かす効果が期待できます。しかし、この手軽な方法の裏には、洗面所の排水管、特にその素材と熱湯の意外な関係が潜んでいます。 家庭の排水管の多くは、塩化ビニール(塩ビ)製であることが一般的です。塩ビ管は軽量で施工しやすく、安価であることから広く普及していますが、その耐熱温度は約60度から70度程度とされています。沸騰したての100度近い熱湯を流し込むと、塩ビ管は熱によって変形したり、劣化が早まってひび割れや破損を引き起こしたりするリスクがあります。特に、配管のつなぎ目にはゴム製のパッキンが使用されていることが多く、ゴムは熱に非常に弱いため、熱湯によって硬化し、ひびが入ることで水漏れの原因となる可能性もあります。このようなダメージは、すぐに目に見える形で現れなくても、長期的に配管の寿命を縮めることにつながります。 また、洗面所のつまりの原因として最も多いものの一つに「髪の毛」が挙げられます。髪の毛は、洗髪や洗顔の際に抜け落ち、石鹸カスや皮脂と絡み合って排水管内部に蓄積し、やがて頑固なつまりを形成します。熱湯は油分や石鹸カスを溶かす効果はありますが、タンパク質である髪の毛を溶かすことはできません。むしろ、熱によって髪の毛が配管の壁にこびりつきやすくなり、つまりをさらに強固にしてしまう可能性も指摘されています。つまり、髪の毛が主な原因のつまりに熱湯を使っても、効果が期待できないどころか、逆効果になる危険性もあるのです。 したがって、洗面所のつまりに熱湯を使用する際は、そのつまりの原因が油汚れや石鹸カスに限定され、かつ熱湯の温度を60度程度に抑えるという慎重な判断が必要です。また、定期的な清掃や、髪の毛キャッチャーの利用など、つまりを未然に防ぐための対策を講じることが、排水管を長持ちさせ、快適な水回りを維持する上で最も重要なことだと言えるでしょう。
洗面所の排水管と熱湯の意外な関係